アーリースターチ
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花 (北見農試) |
草姿 (北見農試) |
塊茎 (北見農試) |
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用途 |
澱粉原料用 (特に早期収穫用) |
長所 |
- 早期収穫に適する。
- ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ。
- 大粒で粒ぞろいが良い。
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短所 |
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(1)来歴
昭和54年(1979)に北海道農業試験場において、大粒、高澱粉価の「島系523号」を母、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性遺伝子を3重式に持つ「R392-50」を父として、交配し、翌年より選抜を加えて育成された澱粉原料用品種である。平成8年(1996)に「ばれいしょ農林37号」として登録され、「アーリースターチ」と命名された。品種名は早期収穫に適した澱粉原料用品種であることを表す。
早掘りに適したジャガイモシストセンチュウ抵抗性の品種として斜網地方を中心に栽培されており、 北海道における作付面積は、平成20年(2008)に初めて1,000haを超え、以後も1,000ha前後を推移し、平成26年(2014)には1,171haであった。
(系譜図)
(2)形態的特性
幼芽は赤く太い。萌芽時の葉色は赤紫を帯びる。茎長は「コナフブキ」より短い中で、太さは中位である。茎は緑色で2次色は無い。そう性は中間型で、分枝数は「コナフブキ」と同等の中で「紅丸」より少ない。小葉は「紅丸」より大きく、毛茸が少なく光沢がある。葉の着生の疎密は「紅丸」よりまばらな中である。がくは紫色を帯びる。花は「コナフブキ」よりやや濃い赤紫系で、花の数は多い。花粉は少なく、自然結果は無い。
ふく枝の長さは短く、いも着きはやや密でやや浅く着く。いもの形は扁球形で、大いもでも長くなることはない。皮色は白黄色、目の深さは中で「紅丸」及び「コナフブキ」より深く、尻もやや深い。肉は白色である。
(3)生態的特性
休眠期間は「コナフブキ」並のやや長である。初期生育は「紅丸」よりやや遅く「コナフブキ」より早い中で、徒長、過繁茂、倒伏は少なく、茎葉の二次生長も少ない。枯凋期は中生ないし中晩生に属し、育成地では「紅丸」より5日〜2週間程度早く、「コナフブキ」より早いが、地域や年次により「コナフブキ」とあまり差がないこともある。
いもの早期肥大性は「紅丸」並のやや速に属し、特に一個重の増加が速い。9月上旬の早掘り収穫における澱粉収量は「コナフブキ」をやや下回るものの「紅丸」を上回り、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性の澱粉原料用品種の中では最も早掘り収穫適性が高い。枯凋期後の収穫では、上いも収量は「紅丸」より少なく「コナフブキ」並である。株当り上いも数は少ないが、上いも平均一個重は極めて大きく、粒ぞろいが良い。澱粉価は「紅丸」より高く「コナフブキ」よりやや低い。澱粉収量は「紅丸」及び「コナフブキ」にはやや及ばないので、収穫期を遅らせると不利になる。
(4)病害虫抵抗性
ジャガイモシストセンチュウ抵抗性遺伝子H1を保有し、北海道で発生しているパソタイプRo1に対して抵抗性である。疫病抵抗性遺伝子R1を持つが、疫病圃場抵抗性は「紅丸」と同様に弱い。塊茎腐敗抵抗性は中。葉巻病には「男爵薯」と同様に弱く、病徴は弱〜中である。Yモザイク病に対する抵抗性も弱く、PVY-O接種による第1次病徴の全身症状ははっきりと現れず、PVY-Tによる病徴も現れない。そうか病には既存品種と同様に弱く、粉状そうか病及び青枯病にはやや弱である。褐色心腐は「コナフブキ」より多く「紅丸」並かやや少ない中で、維管束部に内部褐色斑点が局在する。中心空洞は微、二次生長はみられない。
(5)品質特性
早掘り(9月上旬収穫)塊茎の澱粉特性を早掘りの「紅丸」及び「コナフブキ」と比較すると、澱粉粒子の大きさは「紅丸」よりやや小さく「コナフブキ」より大きい。灰分及びリン含量は「紅丸」より多く「コナフブキ」と同程度である。糊化時の最高粘度は「紅丸」及び「コナフブキ」より高く、最高粘度時温度は「紅丸」及び「コナフブキ」より低い。
普通掘り塊茎の澱粉は、澱粉粒子の大きさは「紅丸」より小さく「コナフブキ」並である。灰分及びリン含量は「紅丸」より多く「コナフブキ」よりわずかに少ない。最高粘度は「紅丸」より高く「コナフブキ」並で、最高粘度時の温度は「紅丸」より低く「コナフブキ」よりわずかに低い。収穫直後の塊茎からの澱粉の離水率は「コナフブキ」並に高いが、長期低温貯蔵した塊茎から調整した澱粉の離水率は低く、「紅丸」に近い値を示す。澱粉特性は「コナフブキ」に類似しているので、固有用途のうち麺類、春雨、片栗粉などには対応可能だが、長期間にわたり冷蔵保管される加工食品(水産練製品、ハム、タレ、ソース)や養鰻用のアルファ澱粉では問題になることがあると考えられる。
(6)適地及び栽培上の注意
適地:北海道の澱粉原料用ばれいしょ生産地帯
・早期収穫向け澱粉原料用なので、浴光催芽、浅植え、早期中耕、仮培土、本培土等により、初期生育の促進をはかる。
・徒長、倒伏が少なく、密植効果が大きいので、5,000株/10a程度の密植とする。
・一個重が大きく、そろいも良いため、掘り残しは少ないと考えられます。
育成従事者
梅村芳樹、西部幸男、入倉幸雄、奥山善直、森元幸、内沢啓、三井康、清水啓、佐藤正人、米田勉、木村鉄也、小原明子、中尾敬、吉田勉
文献及び関連Web
天野洋一,塩澤耕二,大原益博 編.“農作物優良品種の解説 (1996-2004)”.北海道立農業試験場資料 第34号(2005).北海道立中央農業試験場
早期収穫向けでん粉用ばれいしょ新品種候補系統「北海72号」(アーリースターチ) (研究成果情報 北海道農業)
ばれいしょ「北海72号」(アーリースターチ) (成績概要書)
ばれいしょ品種の形態及びウイルスの病徴(2) (独立行政法人種苗管理センター)
「アーリースターチ」の母親「島系523号」に関して
森元幸、西部幸男.“寒地作物遺伝資源情報 第5号 ばれいしょ 島系523号”.北海道農試研究資料.34,65-82(1988)
「アーリースターチ」の父親「R392-50」に関して
森元幸、西部幸男.“寒地作物遺伝資源情報 第4号 ばれいしょ R392-50”.北海道農試研究資料.33,102-106(1987)