ニシユタカ

登録番号:ばれいしょ農林23号
地方番号:西海15号
系統名 :長系82号
系統番号:T7046-19

用途食用 (暖地二期作用)
長所
  • 春作で極多収、秋作でも多収。
  • 早期肥大性に優れ、いものそろいも良い。
  • 茎葉の繁茂量は少なく、倒伏しにくい。
短所
  • そうか病、ウイスル病に弱い。
  • 収穫が遅れると肌荒れしやすい。
  • PVYTNによる塊茎えそ病に非常に弱い。



(画像提供) 花:田中智  塊茎: (財)いも類振興会 他 のパンフレット

(1)来歴

 昭和45年(1970)秋、長崎県総合農林センター愛野馬鈴薯センター(品種登録時には長崎県総合農林試験場愛野馬鈴薯支場に改称)において、外観・食味が良好で暖地の主要品種であるデジマ」を母、大粒で春秋とも多収性の「長系65号」を父として人工交配し、翌年春作に交配種子を播種したものの中から育成されたものです。昭和49年(1974)春に「長系82号」、翌50年(1975)秋に「西海15号」の地方番号を付し、生産力や特性を検討した結果、春作で特に多収で外観も良いなどの優れた点が確認されたことから、昭和53年(1978)に「ばれいしょ農林23号」として登録、西南暖地に適し豊産性であることから「ニシユタカ」と命名され、長崎県で奨励品種に採用されました。
 いもの肥大が早く収量が多いことから、昭和60年以降、特に春作マルチ栽培で急速に栽培が増加し、暖地で最も多く栽培されている品種となりました。全国で春作に4,550ha、秋作には1,215ha(平成15年)作付されており、北海道でも網走、空知、石狩地方などで移出用の採種栽培などに183ha(平成18年)作付されています。「新ジャガ」として出回っている大部分はこの品種です
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(2)形態的特性

 春作の茎長は「農林1号」より約10cm短く、暖地の育成品種の中では「ウンゼン」とともに短い方で、生育後期の伸長も少ないので栽培しやすい。秋作では「農林1号」と大差ありません。茎数は春秋とも「農林1号」や他の暖地育成品種のいずれよりも多いですが、茎数の割には茎はやや太くて直立しており、草勢はやや強く風雨による倒伏や折損も少ない。葉色は「デジマ」よりやや濃い濃緑です。小葉の大きさは中でやや厚く、やや疎に着きます。花は白色で小さく、つぼみのうちに落ちるものが多く開花数は非常に少ない。葯が正常に発達せず、花粉はほとんど無い。
 ふく枝の数は他の暖地品種に比べて少し多いく、長さは中程度で、春作では「農林1号」より短く、秋作では同程度ですが、いもは株元にまとまって着くので掘り取りは容易です。いもは「デジマ」に比べやや扁平な扁球形で、皮色は淡黄色で「デジマ」に比べ黄色味が強い。目は浅く、粒ぞろいも良く外観は良いいもの肌はやや粗で、特に収穫が遅れると「肌あれ」と称して外観評価が下がることがあります肉色は淡黄色です

(3)生態的特性

 春秋二期作が可能な短休眠品種です。休眠期間は「デジマ」に比べ春作産で20日程度長い83日、秋作産は同程度の107日前後です。春作産の休眠日数は「ウンゼン」並とやや長いので、秋作の萌芽は「デジマ」より遅れやすいですが、春作での萌芽は「デジマ」より1〜2日早い。萌芽ぞろいは春秋ともに良い。
 いもの肥大開始は「デジマ」とほぼ同じで特に早い方ではありませんが、「農林1号」や「タチバナ」よりは早く、中後期の肥大が速いので多収となります。収量は春秋作とも多収で、特に春作のマルチ栽培では極めて多収となります澱粉価は「農林1号」や「デジマ」よりやや低いですが、「ウンゼン」や「タチバナ」より常に高い。

(4)病害虫抵抗性

 疫病抵抗性主働遺伝子は持っていませんが、圃場抵抗性はかなり強く、「農林1号」に次ぐ強さで「タチバナ」などよりは明らかに強い。乾腐病にはやや強く、青枯病、軟腐病及び塊茎腐敗に対して「デジマ」より強く、中程度以上の抵抗性を有しています。粉状そうか病には弱い。そうか病に対しては「タチバナ」と同等あるいはそれより少し弱いようで、「デジマ」よりやや弱い。PVY-Oに対して強いえそ型の病徴を現し、PVY-Tに対しては軽いれん葉症状を現します。PVX-oには感受性ですが、PVX-bには強い抵抗性を示します。PVYTNによる塊茎えそ病には非常に弱い。PVSのモザイク系統に対しては病徴を明らかに示しません。葉巻病の罹病度は高く「タチバナ」と同様に弱いと考えられますが、病徴は明瞭で抜き取り上の支障はありません。ジャガイモシストセンチュウ抵抗性はありません。重粘土地などでのいもの裂開はほとんどみられず、二次生長も少ない。

(5)品質特性

 火の通りが遅く調理時に煮くずれしません。肉質は中間からやや粘質で、食感はやや硬く串で刺してもくずれない。調理後の肉色は黄〜クリーム色で、放熱後の黒変も無く美しい。食味は「ウンゼン」や「タチバナ」より常に優れていますが、「デジマ」よりやや劣ります
 煮くずれしないので、長時間加熱するカレーやシチューなどの煮込み料理やおでんの具などに適しています。変わったところではジャガイモそうめんやきんぴらなどにも使われます。粉ふきいもやサラダ、コロッケの適性は「デジマ」より劣ります。

(6)適応地帯及び栽培上の注意

 春秋二期作が可能な短休眠品種で、いもの裂開も少なく、風による茎葉の折損が少ないので、広く西日本各地の二期作地帯に適します。特に、これまでばれいしょの作付に問題のあった重粘土地や季節風の強い沿岸部でも、この品種を用いることで栽培が可能になる地帯も生じると考えられます。
・圃場での葉巻ウイルス感染率が高いので、採種栽培において、媒介するアブラムシの防除に留意することが必要です。
・そうか病に弱いので、発生地での作付けは避け、一般の留意事項を守る。
・遅掘りすると肌あれを生じ外観が悪くなるばかりでなく、春作での遅掘りは秋作の萌芽が遅れ減収を招くので特に注意する。

奨励品種に指定している都道府県(△印は準奨励品種)

△福岡、長崎、△鹿児島

育成従事者

知識敬道、藤山俊計、田渕尚一、北野保樹、西山登、松原徳行、小村国則、永尾嘉孝、石橋祐二



文献及び関連Web

知識敬道、西山登、松原徳行、小村国則.“ジャガイモ新品種「デジマ」、「セトユタカ」、「ニシユタカ」について”.長崎県総合農林試験場研究報告.7,41-76(1979)

農林水産技術会議事務局.ニシユタカ”.農作物品種解説 畑作物の新品種(昭和45〜55年度) (1981) (農林水産研究成果ライブラリー)

ニシユタカ (農林水産省農林水産技術会議事務局 命名登録品種データベース

三善重信、大賀康之、森藤信治.福岡県におけるバレイショの新奨励品種「ニシユタカ」”.福岡県農業総合試験場研究報告A(作物).1,35-38(1982)

ばれいしょ品種の形態及びウイルスの病徴 (1) (独立行政法人種苗管理センター


ジャガイモ品種「ニシユタカ」ジャガイモ博物館(浅間和夫氏による解説))
ニシユタカ (Potato Web ばれいしょ図鑑)

「ニシユタカ」のパンフレット
長崎県の青果物:ばれいしょ (e-農林水産・ながさき
品種情報 ばれいしょのページ (農Knowホームページ
長崎じゃがいもの品種紹介 (NAGASAKI POTATO BUYERS HOMEPAGE




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