原品種名:Cimbal's Phoenix
本第2341号
異名:独乙、独乙赤、サンキ薯、ヒビ薯
明治38年(1905)頃、旭川酒精株式会社の神谷傳兵衛氏がドイツに照会して輸入したとする説と、第一次世界大戦前に神谷傳兵衛氏(二代目?)がアルコール工場の視察のため欧州を訪れた際にドイツから持ち帰ったとする説があります。
北海道農事試験場本場において、当時「神谷薯」と呼ばれた品種の中から、いもの球形のものを選出し、品種試験の結果大正13年(1924)に優良品種に決定したものです。原品種名は「Cimbal's Phoenix」といいます。
当時の品種としてはでん粉含量が非常に高く、各種病害にも強く、瘠地でもかなりの収量をあげることができることから、澱粉原料用として北海道内に広く栽培されました。特に北海道東北部に普及し、当時は澱粉原料は「神谷薯」に限るといわれたほどでした。昭和4年(1929)年には北海道の作付の15%、昭和10年には23%、昭和11年には28%、昭和15年には29%、昭和16年には22%を占める北海道で最も作付の多い品種でしたが、昭和19年(1944)には作りやすくて多収な「紅丸」の普及に伴い11%と急減し、さらに青枯病に強い「農林1号」の普及により役目を終え、昭和34年(1959)には優良品種から廃止されました。
そう性は直立型で茎長は長く、茎には赤褐色の条斑があります。小葉は濃緑色で葉脈は紫褐色、形は長楕円形です。花は淡赤紫色です。
いもは扁球形に近く皮色は暗赤色です。表皮は粗く目の深さ及び数は中位で、外観は劣悪です。肉は白色。肉質はやや密で、味が悪いので食用には向きません。澱粉価が比較的高いので澱粉原料用やアルコール原料用として栽培されていました。ローラーの摩砕能力が低いと澱粉粒子を分離できないほどいもが硬い品種でしたが、澱粉価が高いので大型工場では澱粉歩留りの良さから人気が急上昇しました。
休眠期間は短い。粉状そうか病には極めて強く、輪腐病にも抵抗性ですが、青枯病には弱いため、青枯病の害が甚大だった地域では「農林1号」に置きかわっていきました。
“主要農作物優良品種の解説”.北海道農事試験場彙報.46(1927)
神谷薯一号(本第二三四一号) 本種は本場に於て民間にて「神谷薯」と称せらるる品種の中にて薯塊の丸型のものに対して命名せるものなり。晩熟種にして性強健疫病に強し。茎葉の姿勢直立し、草丈高く、枝椏多く、茎色は緑色にして紫褐色の条斑あり。葉は長楕円形緑色にして脈は紫褐色を帯ぶ。花は淡紫色なり。薯塊は球形にして紅色を有し肉質密にして黄色を呈し食味良好ならざるも澱粉製造用に適す。開花始は七月中旬、茎葉枯凋期は九月中旬なり。
山崎俊次.“馬鈴薯の品種と其の特性”.北農.3(9),349-351(1936)
上川、宗谷地方に栽培されている独乙赤は神谷薯一号の系統である。
Prof Wohltmann (The European Cultivated Potato Database)
Wohltmann (EVA-Kartoffel Online)
山崎俊次.“馬鈴薯の品種と其の特性”.北農.3(9),349-351(1936)