登録番号 | 農林認定 | ばれいしょ農林44号 | 2002.12.19 |
種苗法 | 第8635号 | 2001. 2. 9登録 | |
北海道 | (地域在来品種等) | ||
地方番号 | − | ||
系統名 | 島系575号 | (1994) | |
系統番号 | W882204-117 | ||
組合せ | W822229-5×P10173-5 (1988 北海道農業試験場) | 系譜図 |
花 (北見農試) | 草姿 (北見農試) | 塊茎 (北見農試) |
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独特の食味と風味を有する2倍体小粒種を長日条件の日本でも栽培可能とすることを目標に、昭和63年(1988)に北海道農業試験場において、「W822229-5」を母、「P10173-5」を父として交配し、翌年より実生を養成し選抜を開始した中から育成された品種です。母親の「W822229-5」は、南米アンデス地域の2倍体在来種で独特の食味を有する
Solanum phureja とアメリカ品種「Katahdin」の半数体を交配して育成された2倍体系統です。父親の「P10173-5」は、国際ポテトセンターから導入した交配種子「P10173」より選抜した濃黄肉の2倍体系統です。
平成6年に「島系575号」の名を付して系統適応性検定及び特性検定試験等を行いましたが、普及品種に比べ収量が劣り貯蔵が難しいため、奨励品種決定調査には供試されず北海道の優良品種にはなりませんでした。しかし、濃黄肉色と品質が際立っているため、現地の生産団体からの作付け要望があり、試作や試験販売等に当たって育成系統の権利を保護するために平成9年に種苗法に基づく品種登録申請を行い、起源地と新しさを例えて「インカのめざめ」と命名され、平成13年(2001)に登録。平成14年(2002)には農林44号として登録されました。
道県の優良品種ではありませんが、北海道では地域特産品種として栽培され、現在の作付面積は100haを超えています。
4倍体の普通栽培種(S.tuberosum)とは異なる2倍体品種です。原産地のアンデス地域で独特の食味と風味を有することから高値で取り引きされている小粒種を、日本のような長日条件でも栽培できるように改良してきた品種です。
系譜図
茎長は短、茎の太さは細く、色は緑で基部が紫を帯び、分枝は少ない。地上部全体が小さく、そう性はやや開張です。葉はやや小さく濃緑色で、葉縁は波打ちます。花は淡紫色で、形は桜の花に似ています。つぼみのうちに落ちるものが多く、花数は少ないですが、極まれに自然結果します。
ふく枝は短く、いもは密に着きます。いもの形は卵形で、目は浅く目数は少ない。皮色は黄褐色で、目の周囲に紫の着色があるものが多く、表皮は滑らかです。肉色は橙色に近い濃黄色で「キタアカリ」など従来の黄肉品種より格段に黄色が濃い。
いもの休眠期間は30日未満とごく短く、収穫が遅れると土の中で芽が動いていることもあります。茎葉の枯凋は「男爵薯」より10日以上早い極早生です。いもの肥大と澱粉価の上昇はやや早い。いもは平均一個重が約50gとごく小さい。上いも収量は「男爵薯」の70%とごく少ない。澱粉価は「男爵薯」より3ポイント程高く、約18%です。
ウイルス病に罹病しやすく、ごく明瞭なモザイク症状などを呈します。疫病には「男爵薯」並に弱い。青枯病抵抗性は「男爵薯」よりも強い“強”で、粉状そうか病にも強い。シストセンチュウ抵抗性はありません。いもの内部異常はほとんどみられませんが、Lサイズ以上では発生します。
活性酸素の消去能を有するカロチノイド系色素ゼアキサンチンを生いも1g当り約5μg(「キタアカリ」の約7倍)含有しており、濃黄肉色を呈します。剥皮褐変はありません。肉質は中からやや粘質で、舌ざわりは極めて滑らかです。調理後黒変は無く、調理後も鮮明な濃黄色を保ちます。食味は、ナッツや栗に似た独特の風味があり、クセがありますが非常に良く、「栗」、「サツマイモ」のようだと評する人が多い。
煮くずれが少ないので煮物に適し、油加工時の褐変も少ないのでポテトチップやフライドポテトにも向きます。独特の肉色を生かしたお菓子材料(アイスクリーム、ケーキ、甘納豆等)にも適します。
低温貯蔵では、油加工時の褐変の元になる還元糖の増加は少ないですが、2〜4℃の貯蔵でショ糖が生いも1g当り10mg以上まで増加し、明らかな甘味を呈します。貯蔵後の肉質はやや粘質となり、甘さを生かすお菓子材料に適するようになります。
えぐ味の元になるグリコアルカロイド含量は少なく、曝光によっても増加が少ない。
食味が「男爵薯」より優れ、チップおよびフライの料理加工性に優り、独特の風味や甘味を生かした菓子類など、新たな需要の開拓が期待されています。
・いもの平均一個重が約50gと小さいので、普及タイプのハーベスターでは掘り残しが大量に発生するおそれがあるので注意する。
・休眠期間が極短いので、茎葉の黄変後は速やかに収穫し、冷蔵保存する必要がある。
梅村芳樹、中尾敬、小原明子、森元幸、西部幸男、米田勉、木村鉄也、吉田勉
森元幸・高田明子・梅村芳樹・米田勉・木村鉄也・高田憲和・小林晃・津田昌吾・中尾敬・吉田勉・遠藤千絵・林一也 (2009).橙黄肉色を有する二倍体のバレイショ品種「インカのめざめ」の育成.育種学研究.11(2):53-58
“2倍性ばれいしょ「島系575号」の育成とユーザー評価”.育・作学会北海道談話会会報.37,122-123(1996)橙黄色の美味しいカラフルポテト「インカのめざめ」 (北海道農業研究センター生まれの作物たち 北海道農業研究センター育成品種一覧)