Ⅷ 多彩なさつまいもの加工利用
さつまいもと他のいも類を比べた場合に特徴的なのは、加工用途の幅が極めて広いことです。仕向け先としては、焼酎原料用が最も多く、次いででん粉原料用、加工食品用の順となっています。そして、加工食品用や焼酎原料用の分野では、機能性に着目した新品種の育成もあいまって新たな製品開発の可能性が広がってきています。
1.でん粉
さつまいもから製造されたでん粉のほとんどは、清涼飲料の甘味に用いられる異性化糖の原料として仕向けられますが、その他には春雨の原料としても用いられています。最近では、この特性を活かして透明感と独特の弾力をもった冷麺が開発されました。
近年では新しいでん粉特性をもった品種の開発が行われています。食用品種の「クイックスイート」がもつ低温糊化性でん粉は、一般的なでん粉の糊化温度(65℃~70℃)より約20℃低い温度で糊化する特性をもっており、でん粉の耐老化性はクズやワラビのでん粉より優れています。低温糊化性でん粉をもつ高でん粉で多収の品種が開発されれば、異性化糖の原料用が主体であるさつまいもでん粉を様々な食品加工向けに利用してもらえるようになります。
でん粉を作る際に大量に生じるでん粉滓や廃液を有効利用するための研究が進められています。でん粉滓は、クエン酸の原料や飼料などに使われていますが、これに豊富に含まれる食物繊維を化学的に処理して生分解性プラスチックや紙などの有用な素材を作る取り組みが行われています。一方、廃液からはβ-アミラーゼなどのタンパクを回収し精製するなどして加工食品用の酵素製剤を作ったり、タンパクやペプチドを有効利用する研究も行われています。
2.加工食品
(1)さつまいもの加工食品利用は、生産量の10%ですが、種類がきわめて多いのが特徴です。量的には、干しいも(蒸切干し)が最も多く、菓子用がこれに続き、南九州ではダイス等の冷凍食品、ペースト等の1次加工品の利用が増え、ジュース、パウダーなどの新たな加工品の生産も伸びています。
パウダーは生いもを乾燥して細かく粉砕したものです。パウダーはペーストに欠かせない冷凍保存や解凍処理などが不要で、栄養分とカラフルな色素を有効利用でき、2次加工も容易でパンやクッキー、めん類など幅広い応用が見込まれています。このほかには、従来からの焼きいも、大学いもなどがありますが、最近では中国からの冷凍調製品の輸入が高いシェアを占めているようです。
(2)紫さつまいもに含まれるアントシアニンを抽出し、濃縮、精製して製品化された色素は、清涼飲料、漬け物や菓子類などの着色に利用されています。さつまいもの色素は紫キャベツ等に比べて色調が明るく、光に対する安定性が優れているので、さらなる需要の拡大が期待されています。
さつまいも色素原料の多くは、平成7年度に現在の九州沖縄農業研究センターと色素メーカー最大手の三栄源エフ・エフ・アイ㈱が共同育成した世界初の色素専用品種のアヤムラサキです。以前から、山川紫という紫色の濃い品種があったのですが、収量が低いという欠点がありました。アヤムラサキは、色素含有量が山川紫の4倍程度に達し、収量性は食用品種の高系14号並になりました。平成13年にはあアヤムラサキのいもの外観や収量性を改良したムラサキマサリ、平成17年には、これまでで最も色素含量が多い品種、アケムラサキが育成され、焼酎や色素用につかわれています。しかも栽培しやすいという特徴があります。
○ 国産さつまいもの加工食品用仕向けの推移 (単位:t)
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加 工 食 品 用 |
準 加 工 食 品 用 |
計 |
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蒸切り干し |
菓 子 |
その他 |
大 学い も |
焼きいも |
惣 菜 |
その他 |
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2 |
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7 |
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○ さつまいもペースト
菓子類やスナック食品の原料となるペーストは、さつまいもを蒸し煮、裏ごしして冷凍したもの。材料としては、調理後の黒変、変色が少ない高系14号が適するが、色素系の品種を使えば、オレンジや紫のカラフルなペーストも製造できる。ペーストは、選別・水洗い→皮むき(手作業)→カット(大学いも程度の大きさ)→蒸し煮(20分)→裏ごし(繊維除去)→糖度調整(麦芽シロップ)→冷凍という手順を経て出荷される。こうして菓子メーカーなどに出荷されたペーストは、ようかんやまんじゅうなどの「あん」の材料として利用されるが、より品質の良いものを作るには、やはり原料に品質の良い「いも」を使うのがポイントとなる。 |
3.焼酎・アルコール用
(1)いも焼酎は、少なくとも500年もの歴史を持つ庶民的な飲みもので、 芳醇な香りと深い味わいが持ち味です。1546年(天文15年)に薩摩の山川港に滞在していたポルトガル人の船長ショルジエ・アルヴァレスは『日本報告』の中で、オラーカ(蒸溜酒=焼酎)が身分の上下なく飲まれていると記録しています。その原料は穀物でした。その後、さつまいもが伝来すると、それでも作るようになりました。特に、幕末の薩摩の28代藩主島津斉彬は、いも焼酎づくりを奨励し、薩摩の一大産業へと発展させたことで有名です。
(2)いも焼酎の原料にはコガネセンガンなど、でん粉含有量の多い品種が使われますが、いずれにしても厳選された原料選びが最大のポイントです。製造工程は一次仕込み→二次仕込み→蒸留で、一次仕込みは、さつまいもを選別し、蒸して荒く砕く工程と、もう一つの原料である精白米を蒸し、麹菌を加えて麹を作る工程で約1週間、二次仕込みは蒸したさつまいも、麹と水を合わせて醗酵させ、熟成もろみを作る工程で約 8~10日間、そして発酵が進み十分にうま味が醸し出されると、蒸留、貯蔵・熟成へと進みます。
(3)いも焼酎には米、麦などの焼酎にはない独特の香味があります。このいも焼酎の香りには、モノテルペンアルコール類と呼ばれる微量な香りの成分が関係しています。これらの成分の元は生いもに含まれており、焼酎の製造工程で麹菌による分解、発酵、蒸留過程の加熱などによって香りの成分に変化します。いもに含まれる香り成分の元の量が品種によって異なるため、いも焼酎の香味は原料の品種によって変わります。また、β-カロテンを含むさつまいもの焼酎は熱帯果実のような甘く芳醇な香りを有し、紫さつまいもの焼酎は赤ワイン風味の香りが特徴で、それぞれに関係する香り成分も明らかになりました。こうした品種の違いを利用してコガネセンガンの焼酎とは異なる香味をもつ焼酎作りへの関心が高まっています。
(4)いも焼酎は伝統的な単式蒸留法でもろみを蒸留したもので無色・透明です。一方、さつまいもを原料としたビール(発泡酒)やワイン風飲料(雑酒)などの醸造酒にはさつまいもがもつ紫や黄などの色素が生かされています。例えばワイン風飲料(雑酒)については、糖化後の発酵工程は通常のブドウ酒の場合と同様で、黄色の肉色の品種を使えば白ワイン風に、紫さつまいもを使えば赤ワイン風になります。宮崎県の焼酎メーカーではアヤムラサキを原料にした赤ワイン風飲料が商品化されています。
(5) いも焼酎の製造工程で出される焼酎粕を牛の飼料や土壌改良資材として利用したり、メタン発酵してエネルギーを回収する取り組みが活発に行われています。また、焼酎粕に含まれる植物の生長を阻害する生理活性成分や肥料としての成分を生かして、雑草抑制効果をもつ新たな有機質資材を作るための研究が行われています。
4.その他の加工利用
平成13年に茎葉利用品種「すいおう」が育成されたことにより、これまで食用や加工用としてほとんど使われてこなかったさつまいもの葉を野菜、青汁、お茶やパウダーなどに利用できるようになりました。 上述したように、さつまいもの歴史は加工の歴史であり、それは裏返せば品種改良の歴史でもあります。これから生まれる新しい、ユニークな品種から、次々と画期的な加工品が生まれるのが楽しみです。