令和3年度第3回サツマイモ基腐病情報交換会に寄せられた質問とそれに対する回答をカテゴリーごとにまとめて紹介します。
※2022年3月28日時点の情報です。内容は今後変更となる場合があります。
※サツマイモ基腐病 Q&A(令和3年度第2回版)も合わせてご確認ください。
1.基腐病の発生生態
枯死した羅病残渣でも6か月以上感染力を維持している。マニュアルp.63の表19を参照。それ以上の生存期間はまだ研究中の段階だが、乾燥状態では生存期間が伸びることがわかっている。
基腐病は1912年にアメリカ、1990年代にブラジル、2008年に台湾、2014年に中国などで発生が報告されている。羅病率は41~95%または収量80%減など、いずれも大きな被害が生じたようである。しかし、アメリカでは現在、基腐病は適切な衛生管理が日常的に行われていれば問題にならない病気とされている。効果的な防除対策として無病種イモの選抜、種イモの消毒、苗床や本圃における輪作をあげている。台湾でも基腐病の発症は激減しており、健全苗の使用、発病株の抜き取り、発生圃場の湛水、イネなどとの輪作を推奨している。中国ではソルガムやトウモロコシとの輪作を推奨し、ブラジルでは抵抗性品種の存在がわかっているが被害状況は不明。
外観健全な感染イモは、味やにおい等の違いはなく見分けられない。そのため、種イモに混じったり、販売先で腐敗したりするのが問題となっている。マニュアルp.40を参照に選別を行う。
マニュアルのp.15を参照。疫学調査を3カ年行ってきたが、発生要因は、過去に発生した、表面排水が不良、積算降水量が多いの3つが大きく影響している。気候変動にどこにかかってくるかはわからないが、現時点でわかっているのは以上の通りである。
健全株と羅病株が畑で接触するパターンが多い。コンテナについた土によって媒介されるかは現在のところ不明である。
宮崎県としては、分解されにくい部分もあるので、収穫時に残渣を持ち出すことを推奨している。少量の場合、残渣はかんしょを植え付けない畑にすき込むか、未使用地に隔離している。かんしょ畑からはできるだけ離れた場所で処理したほうが良い。大発生した場合は、産業廃棄物として破棄してもらう必要があるが、自治体が焼却処理などの補助を行っているケースもある。あとは微生物資材をつかって、残渣の分解促進を行っているケースもある。
2.国内での被害状況
鹿児島については、基腐病に限らず一株でも立ち枯れ症状が認められる圃場が県内のかんしょ栽培圃場の約7割で見られる。宮崎県は、基腐病が発生したと判断しているのは県内作付け面積の約6%。被害が激しい産地では、収穫が皆無になる圃場も見受けられている。掘り取り時に外観健全とみえても、貯蔵中に腐敗していくものもあるため、被害状況の実態把握は難しいところがある。
3.農薬による防除・土壌消毒
他の土壌病害に効果がある薬剤を中心に圃場レベルで研究中である。登録がわかった段階でまた公表する。
付着した土壌や残渣によって基腐病が伝播する可能性は高いと思われるが、水などで洗い流すことが重要だと考えられる。塩素剤は効果はあると思われるが、土壌や有機物にふれると、効果が速やかに低下する。消毒よりも水洗による除去を行うほうが大事だと思われる。
農薬メーカーから情報を得ながら圃場レベルで研究中である。登録がわかった段階でまた公表する。耐性菌が出たという事実は今のところないが、ベンレートやアミスターは過去の知見より、耐性菌がでやすいことがわかっているので連用を避けるのが望ましい。輪作や抵抗性品種、早掘りなどの他の防除法を組み合わせていくことが重要だと考えている。
アミスターの防除効果は、試験では防除価70~88の数字が出ており、発病抑制効果はあると考えている。ただ、基腐病の発生部位は地際部なので、株間がおおわれる生育段階だと効果が落ちていくと思われる。株元にしっかりかかるように処理する必要がある。
宮崎県では、これまで虫害対策が中心で殺菌剤の散布はあまり行われていなかった。病害防除のために薬剤散布を行う必要性の周知を行っている。
基腐病は傷が発病を助長するため、採苗後すぐに処理することを指導している。つる割病も採苗後すぐに処理したほうが効果は高いことがわかっている。バケツに薬液を作り、採苗後にすぐに漬けるような方法を検討し、マニュアルで提案している。
4.耕種・生物的防除
現在、研究を進めているところである。経験的には、炭腐病、軟腐病、フザリウム系の病気は熱に強いことが多い。イモに障害が起きる温度は、品種やイモの保存状態によっても異なると考えられる。
苗質がしっかりした苗を使うことが前提ではあるが、48℃・15分の温湯処理で基腐病の発生を低減したという沖縄でやられた試験事例がある。温湯処理ではつる割病の病原菌が残るため、現時点では無農薬での対応は難しいと思われる。
「コガネセンガン」よりも抵抗性が強い焼酎・でん粉原料用の「九州200号(みちしずく)」は今期から作付けが始まる。来年以降、種イモ1トンは提供できるように努力をしている。また、青果用の「九州201号」は次年度の品種登録出願を目指している。食味加工適性の点では、既存の主力品種に及ばず、現在求められている高品質のニーズに十分に対応できているとは言えないが、基腐病に対しては強い抵抗性を持っている。
研究中ではあるが、1年経過した残渣からリアルタイムPCR検査を行ったところ、それなりの基腐病菌濃度があった。感染力という面では不明である。輪作を行ったとしても、かんしょ栽培時には健全苗の使用や定植前の苗消毒、農機具の洗浄、圃場の排水対策を同時に行っていくことが重要である。
種イモからの持ち込み、周辺圃場の菌密度が高く、周囲からの飛び込みの影響が大きく、生産地の環境の問題だと考えている。
試験では「フレールモア」しか使っていないので、他の機械については回答できない。重要なことは、土壌微生物による残渣分解には地温・水分が必要の為、収穫直後に実施する。また、土壌消毒を行うことを考えると、残渣内部の病原菌が薬剤に暴露されるよう、できる限り残渣を小さくすることが重要である。
「べにまさり」が親の品種には、農研機構育成の「すずほっくり」、民間育成の「シルクスイート」がある。「すずほっくり」は抵抗性が認められているが、「シルクスイート」の抵抗性程度は現在のところ不明であ
る。
多発圃場において効果が認められる微生物資材はない。今後、発生条件や場所によっては効果が認められるかもしれないが、現時点では不明である。
汚染状況や残渣と発病の関係について未だデータを蓄積中である。基本対策をしながら、抵抗性のある品種を使うことで発生が減少している。作型の前進化も軽減事例となっている。
マニュアルに示した方法であれば今のところ大丈夫と考えている。収穫から貯蔵中の取り扱い、品種特性、伏せ込み方法など今後も十分な検証を行っていく必要がある。
海外でやられているように2年以上が推奨される。輪作を行ったとしても、かんしょ栽培時には健全苗の使用や定植前の苗消毒、農機具の洗浄、排水対策、抵抗性品種の利用を行っていくことが大事である。
菌の特性から考えると、かんしょ以外の作物を栽培していくことである。
まったく感染しないといった免疫性や感染を広げることのない真性抵抗性については研究段階であり、今後の可能性については現時点では不明である。
糖含有珪藻土を利用して試験を苗床で行った結果、菌の検出がなくなった事例がある。糖含有珪藻土について試験を重ねていく予定である。
5.芋の収穫・貯蔵・流通
今回はなし
6.検査技術
植付から圃場を覆うまでの発病初期での判別と、生育中期から収穫までの被害の広がりの評価の両面で検討を進めている。
LAMP法乾燥試薬サツマイモ基腐病検出キットが株式会社ニッポンジーンマテリアルから販売されている。また、マニュアルのP.16~22に菌の形態観察やPCR法による診断方法を記載しているので必要に応じて参照して欲しい。
7.その他
早く発見して早く対応することが重要である。基腐病の特徴のある写真を掲載したリーフレット等で広く紹介する、見つけた際にどこに連絡するかを明確にし、速やかに確定診断できるようにしておくことが重要だと考えている。市民農園では、参加者にリーフレットを配布し、技術員が見回りを行うようにしている。