サツマイモ基腐病情報交換会によせられた質問とそれに対する回答をカテゴリーごとにまとめて紹介します。
※2021年12月21日時点の情報です。内容は今後変更となる場合があります。
※サツマイモ基腐病 Q&A(令和3年度第3回版)も合わせてご確認ください。
1.基腐病の発生生態
発病株に形成された胞子が、降雨や圃場の停滞水等により移動し、周辺の健全株の茎に感染するため、雨の多い時期に発病は多くなります。しかし、感染してから発病するまでのメカニズムはわかっておらず、発病しやすさと生育時期との関連は不明です。
立枯病はpHが高くやや乾燥気味の土壌での発生確率が高いです。苗が発根、活着し、地上部の生育が始まる植え付け2週間頃から、葉が黄色ないし紫紅色を帯び、次第に生育不良となります。根は腐って脱落し、地下部の茎にはへこんだ黒褐色の斑点が、発根基部、節間、苗の切り口などに生じます。イモにも黒斑が生じますが、コルク化して内部へは拡大せず、表面の数mmにとどまります。基腐病も葉が変色し、生育不良を生じますが、地上部の茎の地際のあたりが暗褐色~黒色になり、分生子殻(微細な黒粒)が形成されます。茎の初期症状では黒斑に見えることもあるかもしれませんが、黒変部は斑点にとどまらず、いずれ茎をぐるりと取り囲みます。立枯病では、地上の茎に病徴は現れず、地下の茎の病斑はあまり広がらないと考えられます。また、イモの症状は、基腐病ではなり首から徐々に全体に腐敗することが多いですが、立枯病では表面に斑点が生じ、腐敗は内部まで進みません。
ヒルガオ科だけに感染するため、雑草化した外来種のアサガオにも感染する可能性があり、これまでにアメリカネナシカズラ、グンバイヒルガオおよびマメアサガオには明らかに感染性が認められています(非公表データ)。本病の発生生態は十分に明らかにされていませんので、雑草での本病菌の発生にも引き続き注意が必要と思います。
疫学調査の結果からは、土壌pHと基腐病の発病程度との間に、明確な関係は認められておりません。但し、ほ場のpHを上げると立枯病が広がる恐れがあるので、pH
5.5以上にしないことが肝要です。
土壌中にさつまいもの残渣があれば、その内部で生存します。さつまいもを栽培していたほ場では数年たってもさつまいもの小さな塊根等の残っている可能性があります。国外の報告では、基腐病菌は植物体外では長く生きられないとされていますが、詳細なデータは示されていません。今後、究明をしていく予定です。
2.国内での被害状況
基腐病は、栽培を繰り返すことで圃場内の病原菌の密度が高くなること、また病原菌が感染した種苗を各地の圃場に植え付けてしまうことで激増すると考えられますが、九州における理由について正確なところはわかりません。未発生地域では、病原菌を持ち込まないことに最大限の注意を払い、万が一発生が確認された際には、速やかに抜き取りを行い、病原菌を増やさない努力をすることで、激発を防ぐことができると考えています。
南九州のさつまいも生産地域では連作が行われており、発生ほ場を休ませることができないことが大きな要因です。前作で発生が認められた圃場では、かんしょを連作すると再び基腐病が発生し、罹病残渣などで病原菌が土壌中に集積し、圃場の汚染程度が高まると考えられます。従って、発生圃場ではかんしょの連作を避け、非宿主作物の栽培や休耕することを第一に考えましょう。他作物の栽培または休耕の際には、基腐病菌が生き残る原因となる野良イモの発生に注意が必要です。また、その圃場の土壌は基腐病菌で汚染されていることにも留意し、作業機や長靴などで汚染土壌を拡散しないことも大切です。
基腐病菌は、かんしょ残渣で越冬し次作の伝染源になるため、罹病残渣(特に分解されにくいしょ梗や腐敗塊根)は圃場外に持ち出し、地域のルールに従って適切に処分してください。持ち出しできない残渣は、収穫後速やかに細断、耕耘などを行ってすき込み、分解を促進することで次作の基腐病の発生を軽減できると考えられます。残渣の分解には土壌中の微生物が関与することから、20℃以上の地温と適度な土壌水分が必要と考えられます。 また青果用産地では、収穫物の一部を種芋として利用することが多いと聞いておりますが、これは発生ほ場から採取した無病徴の汚染種芋を導入してしまう危険性があることに注意してください。
徳島県ではこれまでに発生の報告はありません。砂地であれば水抜けが良く、滞留水がほ場で生じない場合は発生は少ないことが予想されます。例えば宮崎県では、令和2年度6月中旬に県央地区沿岸部の砂地ほ場で高系14号の発病を数株程度確認しましたが、抜き取り後まん延は認められませんでした。このことから、まったく発生しない訳ではありませんが、排水良好でもあるので激発には至らないと考えられます。なお、高系14号はやや罹病性なので、3原則(病原菌を持ち込まない、増やさない、残さない)を必ず守って栽培していたいただくようお願いします。
3.農薬による防除・土壌消毒
ベンレート耐性のつる割病菌が発生していますので、ベンレートとは別の作用機作を有する農薬も必要であると認識しています。現在は基腐病の対策を最優先に考え、農薬メーカーと協力し、基腐病に対して防除効果を示す複数の剤について検討を進めているところです。
現在までのところ、耐性菌の発生は確認されていません。アゾキシストロビン剤(商品名:アミスター20フロアブル)はストロビルリン系殺菌剤(以下,QoI剤)ですが、近年、QoI剤に対する耐性菌の発生が多数報告されています(ウリ類うどんこ病菌、キュウリべと病菌、ナスすすカビ病菌、チャ輪斑病菌など)。QoI剤は散布頻度が低くても防除効果が低下する事例があり、耐性菌の発生リスクの高い薬剤とされています。サツマイモ基腐病菌の耐性菌は確認されていませんが、今後、耐性菌が発生しないよう、農薬の使用回数は守り、種類の異なる農薬や、農薬以外の対策も組み合わせて総合的な防除を行いましょう。
農薬の使用にあたっては、ラベルに記載されている適用作物、使用時期、使用方法等を守っていただきますようお願いします。例えばアミスターでしたら、カンショの生育期に株元に散布することで防除効果が得られます。なお、現在基腐病に適用登録されている薬剤は、畝間散布での効果は明らかにされていません。
散布頻度は生産者により異なりますので、回答は難しいです。参考までに、宮崎県総合農業試験場では7日間隔で8回の銅剤散布を行い、防除効果が確認されています。なお、ドローンによる銅剤の空散については農薬登録されていません。効果的な散布方法については研究中です。
アミスターについても7日間隔での散布で効果があることが実証されていますが、登録上、3回までの実施及び収穫14日前までの散布となっています。南九州では植え付け後5週間ころに一回目の空散を行っているところもあるようです。参考データですが、令和3年度、宮崎県内の青果用産地においては定植後1ヶ月前後に1回目散布((4月中下旬定植、5月上旬ドローン散布)を行い、約1、2ヶ月後にそれぞれ2回目の散布を行っています。加えて早掘り等収穫の前倒しも行われたことから、前年度のような顕著な被害ほ場は少なく、無散布ほ場との明瞭な差異は見られなかったものの、アミスター空散ににより一定の防除効果はあったものと考えています。また生産者によっては、3回目を地上散布とした事例もあります。
マニュアルの試験結果を見てもアミスターフロアブルの効果は確実にあります。現在の開発フェーズについては農薬メーカーにお聞きいただくようお願いします。
26pの試験は、生の残渣を投入した人工汚染圃場での試験結果となります。クロルピクリンは、水に溶けにくい性質から、未分解の粗大な残渣中には浸達しにくいことが考えられ、また、畝間が未消毒となってしまうことも防除効果が上がりにくい原因ではないかと考えられます。南九州の慣行の畝内消毒では効果が出ない事例が多く、その理由は究明中です。一方、気温の上昇に伴いクロルピクリンのガス透過率が早く暴露時間の相対的短縮の可能性も考えられ、ガスバリアフィルム(難透過性フィルム)を利用した試験も現在行っています。少発生の地域で効果が出ている例もあるので、基腐病の未侵入の地域あるいは程度の低い地域では、通常の防除で効果があるのではないかと思います。甚汚染状態にある圃場においては効果が低くなるとご理解ください。
4.耕種・生物的防除
すでに3年前から基腐病抵抗性品種の導入を図り、海外(CIP)から導入した基腐病抵抗性を持つとされるかんしょ栽培品種について、抵抗性程度を確認しているところです。その結果、見出された抵抗性の強い品種・系統を抵抗性品種育成に利用する予定です。既存品種では、焼酎用に育成された「タマアカネ」が抵抗性強、でん粉原料用の「こないしん」がやや強なので、まず、「こないしん」への切り替えが必要になります。なお、種苗会社の三好アグリテックにおいても抵抗性品種について開発を始めたとのことです。
様々な微生物資材を用いた防除法については多くの方が取り組まれているようですが、基腐病の防除効果について科学的に証明されている資材は現時点ではまだありません。
第1回情報交換会のパネリストの中には有機栽培で大麦や小麦を導入している方もおられます。今後、優良事例など情報共有を進めていきたいと思います。
種苗会社は今回の関東地域における基腐病苗の流通を受けて、出荷する際にはさらに厳格な確認を行うことになると思われます。(罹病苗を流通させれば種苗会社にとっても死活問題となります)
加温処理は基腐病菌の胞子を特別な機器の中で加温した場合の効果を調べたものです。胞子懸濁液を48℃で10分間または51℃以上であれば5分間処理すると、発芽能力を失うことがわかりました。しかし、実際の生産現場では、基腐病菌は塊根の中にいるため、この条件では死滅しません。蒸熱処理は、専用の蒸熱処理装置を用います。
土壌還元消毒法は、化学農薬を用いずに土壌病害虫を防除する環境保全型の土壌消毒技術です。
クロールピクリンは15℃以上が適切な温度とされています。但し、25℃をこえると残留期間が10日程度となり、15℃の半分ほどの日数でガス抜けします。地温が15
℃くらいまで下がってからの使用が適切です。バスアミドのかんしょへの使用時期は植付21日前までとなっています。地温についてはあまり高いと揮散するようです。十分な効果を確保するため、土壌表面の被覆を行いましょう。本圃では、地温10~15℃で20~30日以上の被覆、苗床では地温10~15℃で20~30日以上、15℃で14~20日、20℃で10~14日の被覆が推奨されているようです。
5.芋の収穫・貯蔵・流通
地際に病徴が出てから、塊根が感染するまでの期間について詳細な試験はしていません。また、品種によっても異なると考えていますので、回答は難しいです。マニュアルの23pは、高系14号の収穫時の基部発病率と塊根腐敗率の相関を示しています。両者には正の相関があるので、基部の発病がみられたら、試し掘りをして塊根の肥大状況を確認し、早期に掘り取りを行うことが望ましいです。
コンテナ内に一つでも罹病イモがあれば、罹病部位に接する周囲の健全イモにも病気は伝染します。コンテナからコンテナへの感染については、研究実績はありませんが、貯蔵中に3割のいもが感染したという例があります。貯蔵中の見回り確認等は必要です。
苗の仕入れもとへの報告は必ず行ってください。基腐病菌は人間には感染しませんので、触れただけでは害はないと考えられます。
流通途中での荷痛み等の問題は作物全般に生じることです。基腐病も同様に対応していただくようお願いします。取り扱う人への影響は全くありません。
6.検査技術
土壌からの検出はPCR法により可能ですが、手法としてはまだ確立しておりません。1g以下の土壌を使って検出するため、その結果が、その圃場の基腐病菌の有無を必ずしも反映しているとは言えません。
疑わしい株を見つけたら、まずは県の普及センターにご相談ください。民間企業で委託できるところについては存じ上げません。
7.その他