東京の男の人からこんな電話があった。

「今朝の朝日新聞に 『はやりもの考 高級焼き芋』 というコラムがあり、全国各地のブランドいものことがありました。それを読んでいて、自分にはもっとうまいいもがあるんだぞということを言いたくなりました。それでおたくに電話をしてしまったというわけです。
自分の家はむかしから東京にありました。小学校の4年生の時、集団疎開ということで群馬の水上の温泉宿に行きました。そこでなによりもつらかったのはたべものが少なかったことです。いつも腹ぺこで頭の中には食いもののことしかありませんでした。
そんな時のある日、お袋が細いいもを3~4本持って面会にきてくれたんです。その皮の色は鮮やかな赤。身の色はまっ白。ねと~っとしたようかんのようにあまいいもでした。
それはお袋が狭い庭で作ったものでした。そのうまかったこと、あんなにうまかったいもは初めてでした。以来、あれに勝るいもはないとなりました」

話を聞いていてそれは 「太白」 といういもだと思った。それでそれを探しているのかと思ったら違った。その人はこう続けた。
「自分たちの時代にも、いまの時代に負けないうまいいもがあった。それを若い人たちに伝えたかっただけです」と。