60代の上品な男の人が1人できて、展示品の一つ一つをていねいに見てくれた。帰りを急ぐようにも見えなかったので声をかけるとこんな話をしてくれた。

「わたしは奈良市からきました。母が先年92で亡くなりました。母がめちゃくちゃ好きだったのが焼き芋でした。自分専用の家庭用焼き芋器で、毎日おいもさんを焼いていました。母が亡くなってからは、わたしがその焼き芋器でおいもさんを焼くようになりました。
といっても毎日ではありません。月に一度、母の月命日にだけです。その日の仏壇のお供えには焼き芋が一番いいと思っているからです。 そのことと今日、川越にきたこととの関係ですか。奈良にもおいしいおいもさんがあります。
でもおいもさんといえば川越が有名です。焼き芋を焼くようになって、なんでそうなのかを知りたくなったからです」

そのことならこうですとわけを話させてもらったが、当館でのこれほど孝心の厚い人との出会いは初めてだった。