わが国の青果用甘藷の最大の産地は千葉県と茨城県だ。品種は共に「べニアズマ」。いも畑も同じで6000へクタールずつ。ところが東京中央青果市場のシェアは千葉6割、茨城3割と大きく開いている。なんでそうなるのだろう。それを知りたくて茨城行きとなった。

茨城の主産地は鹿島灘沿いに帯状に伸びる鹿島郡とその北沿いの行方郡。土地の人は「鹿行地区」と呼んでいる。今日はそのうちの鹿島郡の農協を回ってみた。水戸駅から鹿島神宮駅行きの列車が出ている。
鹿島郡のまん中を走っている鹿島臨海鉄道で、今日はこれをフルに利用した。駅はほとんど無人駅。線路の両側はメロンのハウスといも畑ばかり。 10時、水戸発。30分ほど乗って鹿島旭駅で降りた。駅前に旭村農協の営農情報支授センターがあった。これ幸いと飛び込む。農協に勤めて15年という酒井亨主任が村のサツマイモ事情を説明してくれた。
「旭村最大の物産はメロンで年80億円。サツマイモは10億円です。いも畑は1000へクタール。甘藷農家は二つに分かれています。それ専門のグループと、それは副で、メロンやトマトに力を入れているグループです。
前者のいも畑は広く、1戸、5へクタール以上。貯蔵庫を持っていて、有利な販売をしています。サツマの値段が1番安いのは収穫期の秋です。年を越すとだんだん上るので掘ったいもを全部貯蔵庫へ入れ、相場を見ながら売って行きます。後者のいも畑は1戸、1~2へク夕ール。ほとんどの人が貯蔵庫を持っていません。だからいもを掘るとすぐ全部売ってしまいます。いもはそのままでは寒くなると腐ってしまいますからね。
茨城の甘藷産地には本格的な貯蔵庫をいくつも持っている甘藷業者が大勢います。彼らは組合を作っていて、いもの買い入れ価格を協定しています。それでも競争が激しく時期になると、うちはいくらいくらで買うというチラシが新聞によく折り込まれます。その値段? 20キロ、泥付きで上もので800円前後。大き過ぎたり、小さかったりなどのすそものだと500円前後です。
農協? うちも業者に負けないようにがんばっていますが、村のいもの2割しか集められません。茨城は業者の天下で、サツマやゴボウ、ニンジンなどの「土物」は特にそうです。
販路? 千葉と違って茨城はいもの洗い方や選別が大まかですから京浜市場向きではありません。そっちは千葉県さんに任せています。うちは東北、北海道に力を入れています。そっちの方が京浜市場より高く買ってくれるからです。
最近の面白い傾向は茨城のいもが関西で売れるようになったことです。阪神市場は高品質、高価格の「なると金時」や宮崎の「紅ことぶき」の地盤です。でも高いものばっかりは買っていられない。安くてうまいいもはないかと思っている人も多いはずです。そう思ってこっちのべニアズマを送ってみたらやっぱりそうでした」

旭駅にもどり、臨海鉄道に乗る。普通なら茨城最大の甘藷村、鉾田に寄るところだが、ここへは何回か来ているので割愛、その先の大洋駅で降りた。大洋村農協では最近真空パック入りの焼き芋の製造と販売を始めた。そのいきさつを聞いてみたかったからだ。大洋村農協も駅の近くにあった。来意を告げると菅谷正生産指導課長がこう教えてくれた。
「この辺でサツマイモと言えば鉾田町(1300へク夕ール)と旭村(1000へクタール)です。うちは少なく350へクタール。いもの貯蔵庫を持っている人もほとんどいないので、秋になると村外の業者がどっと買い付けに来ます。それが安い。どの業者も申し合わせたように安いことを言うんです。20キロ入りのコンテナが600円とか700円なんですよ。それで頭にきて、なんとかしようとなったのです。
茨城で干し芋といえば、ひたちなか市と東海村です。でも他でもやっているんです。うちの農協の干し芋部会もその一つで、13戸でやっています。焼き芋を始めたのは実はこの干し芋部会なんです。
一昨年は試作で、去年から本格的になりました。製法は引き売りの石焼き芋と同じで、あれを大きくしただけです。小石を厚く敷き、下からプロパンガスのバーナーであぶります。そしていもを石の上に置く。いもは1つの焼き芋機で200キロ焼けます。それが3機あります。
焼き芋はやってみるとネックがいくつもあるものです。石を温めるのに時間がかかるので焼きに2時間かかります。焼いたいもをすぐ袋に入れることはできません。冷ましてからなので、それに3時間もかかってしまいます。とにかく時間がかかるんです。
焼き芋のパックは300g入りと500g入りで、いずれも同じ大きさのいもを2本ずつ入れることになっています。ところがいもの大きさはいろいろでロスがすごく出ちゃう。真空パックにしていますが賞味期限は15日と短かい。それにシーズンも11月から3月までと短かい。10月からやりたいんですが、ちょっと早い。1番売れる月? 2月です。販路? 大手は生協さんです。うちの干し芋は昔からそこへ行っていました。その縁で焼き芋も納めさせてもらうことになったのです」

先日、サツマイモ資料館に来た茨城の人が、茨城で1番うまいいもは大野のいもだ。あれにかなうものはないと言った。大野とは臨海鉄道の終着駅に近い鹿嶋市大野地区だ。大洋駅からまたそれに乗り、大野駅で降りる。しおさい農協大野中央支店も駅の近くにあった。北崎末雄営農部長にわけを聞くと、こういうことだった。
「ほほう、ここのいもはそんなに評判がいいんですか。ちっとも知らなかったなあ。土は海のすぐそばだけど砂ではない、火山灰土です。作り方も肥料も他の村と同じです。ここがよそと違うのは地形です。ここの前は太平洋、後は北浦です。前後を水ではさまれているので、1日の気温の差が大きい所です。夜冷えますからね。そういう所の米や果物はうまい。大野の米やイチゴはうまいので有名だけど、サツマもそれでうまいんじゃあないですか」
農協を出ると外は夕闇に包まれていた。今夜は鹿嶋市内に泊り、明日は千葉県に出る。鹿島神宮駅からJR佐原線で佐原へ出て、北総台地の甘藷村を回るつもりだ。