島根県東部の八束郡八束町に大根島がある。中海のまん中に浮かんでいる島だ。さいきんはボタンの花の名所になっているが、戦前は農家の自家用のサツマイモ畑の多いところだったという。
今日は同島出身で、いまは兵庫県に住んでいるという夫婦がきた。70代の人で、こんな思いがけない話をしてくれた。
「わたしたちは育ち盛りを大根島で過しました。サツマイモ畑の多いところでしたが、品種は1種類だけ。『かわごえ』しかありませんでした。その皮の色は赤。蒸しいもの身の色はまっ白。ねっとりのあまいいもで、冷めてもおいしいいもでした。
本当は「太白」と言うのでしょうが、島では「かわごえ、川越」と言っていました。むかし川越からその種いもか苗がきたからなのでしょうね。
その後、島を椎れ都会で暮しました。そしてトシを取りました。そうなるとむかし子供の頃食べたものが恋しくなるものです。それで大根島に『かわごえ』を求めに行ってがっかりしました。もうそれを作っている人は1人もいなかったのです。それで川越にわざわざきたというわけです」
川越地方には太白を作っている農家が何軒かある。そこを紹介してあげたが、川越の太白が出雲の中海地方まで行っていたとは知らなかった。