当館の展示室に在来種のサツマイモ、「大白」(たいはく)がある。川は赤、肉色は自。蒸しいもはねねっとりタイプであまい。
川越地方でも戦前は農家の自家用として作っていたが、さいきんは作り手がいなくなり「幻のいも」になりかかっている。
それを見た70代の女の人が「あっ、羽二重(はぶたえ)いもがある」と叫んだ。
初めて聞く名前だったので、わけを聞いてみるとこういうことだった。「わたしは山梨の大月から来たの。むかし懐かしい羽二重いもがあったんで、思わず声が出ちゃった。
このいもはうちの方にもたくさんあった。戦後、いつの間にか消えちゃったけどね。いもを蒸して皮をむくと、身から絹のような光沢が出る。きめもこまやかで、なめらか。それで羽二重いもと言っていたのね」
それにしてもなんと優雅な呼び名なのだろう。その名のためにも、太白を幻のいもにしてはならないと思った。