農林水産省の調査によると、最近の干し芋(蒸し切り干)用のサツマイモ生産量は全国で4万トン。うち茨城産は3万トンとある。茨城県はこのような干し芋大県だが、それを県下一円で作っているわけではない。産地は限られていて、そのほとんどをひたちなか市と東海村だけで作っている。 そのひたちなか市の前渡小学校の鈴木洋子先生から、こんな電話を頂いた。

「わたしは3年生の担任です。今年から始まった総合学習でサツマイモと取り組んでいます。地域の特色を活かしたもので、その学校独自のものとなれば干し芋しかない所ですからね。ただ始めてみると困まることがいろいろあります。サツマイモについての情報がありそうでないのもその一つです。川越にサツマイモの資料館があることが分かったのも、つい最近のことです。そちらにはどんな資料があるのですか?」

先生のご苦労はよく分かる。「大変ですね」と言うと、「ええ、それはもう。でもやり甲斐もあるんです」 と、こんな話をしてくださった。

「学校の周囲にも干し芋農家がたくさんあります。先週からそこで干し芋作りがいっせいに始まりました。いもを洗って蒸して、皮を取ります。それを薄く切って天日で干します。わたしもさっそく子供たちとそれを見に行きました。何軒もの家を回ってから、子供たちに感じたことを言ってもらいました。すると多くの子がこういうことを言うではないですか。
『どこんちへ行っても干し芋を作ってるのはじいちゃんとばあちゃんだけだね。どうしてそうなの?』
これにはハッとさせられました。なんて鋭い観察眼なのかと。日本の農村で今一番の問題は農民の高齢化と後継者難です。それをまだ9歳の子供たちがちゃんと見抜いているんですからね。」

農林水産省の 『2000年世界農林業センサス』 によると、平成12年の日本の農業就業人口は389 万人。うち高齢者(65歳以上)は205万人(53パーセント)にもなっているという。年々増え続けていた高齢者の割合が、ついに5割を越してしまったということだ。

話を元にもどそう。今年度から小中高の学校で「総合的な学習の時間」がスタートした。地域の人、もの、ことなどとの共生を求め、地域に根ざした総合的な学習を行うという、まったく新しいタイプの試みだ。 その中でサツマイモと取り組んでいる所となると小学校が特に多いようだ。それは当館に全国各地の小学校の先生や生徒から、さまざまな質間がたくさん来ていることからも分かる。
その中には専門家でも恐らくハッとさせられるに違いない鋭いものがたくさんある。総合学習が早くも成果を挙げはじめている証拠といえよう。当館としてもこうした新しい動向に対応できるサツマイモ資料集を急いで作らなければならないと思っている。