川越の隣りの狭山市に、株式会社「都市構造研究所」がある。全国各地の地域おこし運動にシンクタンクとしてかかわっている。ここの雛元昌弘社長夫妻の楽しみの一つは紙や布、木、土などで作った「野菜クラフト・グッズ」の収集。始めて4年ですでに国の内外から1300点も集めたという。
そこでコレクションを公開してみることになったが、当り前の所でやるのは面白くない。研究所に近く、地域おこしもやっている所ということで当館に話が来た。サツマイモも最近は「でん粉用いも」が少なくなり、ほとんどが野菜として作られている。その上、健康食、美容食ということで見直され、若い人たちにも受けるようになった。ということはサツマイモ関連のクラフト・グッズも新しいものが増えているはずで、こっちもその動向が知りたい。それで喜んで協力させてもらうことになった。
特別展の名称は「べジタフルワールド 野菜クラフトの世界」。会期は10月2日から7日まで。野菜はだれにとっても身近なものなので、のぞいてみたくなったのであろう、毎日大勢の人が来てくれた。
雛元夫妻は仕事で全国各地を飛び回っているので顔が広い。自分のコレクションとは別に特別コーナーを設け、そこに全国の野菜クラフト作家の新作品を出してもらうことになった。
7人の作家が応じてくれたがその一人に、わが川越の高橋ぱろスケさんがいた。名前からたいていの人が男の人と思ってしまう。わたしもそうだったが、実は子育てにも忙しい女の人だった。ぱろスケさんの作品は特殊粘土で作ったもの数点と1枚の絵だった。どちらも擬人化した野菜をたくさん使い、温かく、楽しい雰囲気の世界を創り出している。
わたしはその中の絵が特別気に入った。場面は土の中。それにしては明るく、にぎやかだ。画面中央に大きなべッドがある。太いサツマイモが一つ、そこで眠っている。紅赤色の大きな顔が毛布から出ている。その周りに殻付きのラッカセイが5ついる。どれにも手と足があり、ワイワイ騒いでいる。酒杯を手に乾杯をしている者。クラッカーを鳴らしている者、両手でサツマイモの顔を撫でたり、たたいたりしている者などといろいろだ。
それを見て農業に詳しい人だなと思った。サツマイモには根に寄生する大害虫、ネコブセンチュウがいる。連作を続けるとそれが増え、いもの肌が荒れるし収量も減る。それを防ぐため他の作物と輪作したいが、それはまたたいていの野菜にも寄生するので難しい。
ただなぜかラッカセイにだけは寄生しないので、サツマイモ作りにはそれとの輪作が理想とされてきた。ところが最近は外国から安いラッカセイが大量に入ってくる。それで甘藷農家もそれを作らなくなり、殺線虫剤を使っての連作を強行せざるをえなくなっている。
ぱろスケさんの絵にはサツマイモとラッカセイの相性のいいことと、互いに出番を交代した良き時代の情景がほのぼのと描かれている。もっとも後で聞いてみたら、輪作のことはちっとも知らなかったという。それでいてこういうものが描けるのだからすごい。年の暮の今日、ぱろスケさんがその絵を当館に寄贈したいと持ってきてくれた。手元に置いておくより、その方がこの作品にとって幸せのように思えてきたからという。