京都市の北、丹波高地のふもとに「かやぶき民家の里」として有名な美山町(京都府)がある。かやぶき民家が270戸も残っていて、その残存率は日本一という。今日はそこに住み着き、親方について茅葺きの仕事を教わっているという西尾晴夫君が来た。同君は京都の大谷大学の哲学科を出ているという。なんで職人になろうとしているこか分からないが、面白い青年だ。
美山地方での茅葺きの仕事は春から秋までで冬はまったくない。冬は雪の日が多いからという。そこで茅葺き関係者は親方以下だれでもがアルバイトを探さなければならない。若者はスキーの指導員などになるが、西尾君は子供の頃から焼き芋が大好きだったので、この冬は石焼き芋をやってみたという。
知人から道具を借り、軽4輪に積んだ。美山から京都までは雪道で、車で1時間半かかる。石焼き芋の燃料はプロパン。いもは徳島産のブランド品、「鳴門金時」。京都の市場で仕入れる。そして学生時代を過した土地勘のある京都市内を流す。
西尾君は25歳。若いので客が安心するらしい。新米の焼き芋屋にしては良く売れたという。ただ路上での商売に対する警察の規制が厳しく、車をどこへ停めても警官に怒られる。これでは先は知れている。どこかの店先でも借りて「店売り」に変えるしかないと思い、いもの町、川越の様子を見に来たのだという。
川越には引き売りの石焼き芋もあるが、店の土間でいもを焼いている所も何軒かある。「つぼ焼き」もあれば、電気式やガス式の焼き芋器を置いている所もある。まる1日かけて2人でそういう店を回ってからのこと、西尾君が面白いことを言った。
「川越の焼き芋屋さんて、どこも女性がやってますね。石焼き芋だとオジサンです。それもどこのだれかも分からない人が流している。だからなじみになるまではなんとなく怖い。初めての人だと、いくら吹っかけられるか分かりませんからね。
それと比べると店売りは強い。その上女性がやっているから一層安心です。見ていると『焼けているわよ』の一声で客はもうニコニコ、いくらとも聞かずに2本、3本と買っています。あれで100gいくらと最初から表示しておけば、もっと売れるでしょうね」