栃木県の鹿沼市から渡辺正義という人が来た。50歳前後の人で近くの工場に勤めながら、1へク夕ール余の水田と10アールの畑を耕しているという。畑では手のかからないサツマイモを作っている。土質が合っているのであろう、うまいいもがたくさん取れるという。
渡辺さんは働き者だ。土・日などの休日にブラブラしていることができない。春から秋にかけては野良仕事があるからいいが、冬はそれがないので困ってしまう。そこをなんとかしようと考えているうちに、焼き芋屋を始めることを思いついたのだという。幸い今秋から町の中のいい所に店を出せることになっているという。あとは開店に備えての焼き芋器の選択だ。
渡辺さんは自信のあるいもを自分で焼き、「これはおれが作ったいもなんだ、だからうまいよ」と言いながら売りたいのだという。そうなると休日だけの商売になってしまうが、それでは客が承知すまい。人を傭って平日でも焼いた方がいいのではなかろうか。
わたしは同じようなことを何年も前からやっている人を知っている。茨城県稲敷郡阿見町の飯野良治さんだ。飯野さんは40代の働き盛り、水稲とサツマイモを作っている専業農家だ。ある年のこと、精魂込めて作った自慢のいもを仲買い人に買いたたかれ、とてもくやしい思いをしたという。そこで自分で作ったいもは全部自分の家で焼いて売ることにした。
幸い同家は広い自動車道沿いにある。その道の反対側に自分でログハウスを建て、中に特製の焼き芋器を据え付けた。そして車を数台停められる駐車場まで作った。いもを焼く係りは飯野さんの両親だ。まだまだ元気なので冬中、焼き芋小屋でがんばってくれている。
客の多くは車で通りがかる人たちだ。「焼き芋の産直」なんてあまり聞かない。珍しいし、安い。その上うまいときては、受けないほうがおかしい。