利根川河口の右岸は銚子で、左岸は茨城県の波崎(はさき)町。ここは砂浜でいまでもサツマイモ畑が多い。イワシもたくさんとれたところなので、ここの人たちは「自分たちの体はいもとイワシでできている」とよく言ったものだという。今日はそこから70代の女の人がきて、子供の頃のこんな話をしてくれた。
「あの頃は戦争でサツマイモをたくさん作ってた。うちは農家だったので『沖縄100号』とか、なんとか何号などといういもを作ってた。それを目当てに東京から買い出しの人が大勢きた。
ある日のこと、子供の手を引いた女の人がきた。畑のわきに寄せてあるいものつるを見て、母にたべられるかと聞いた。母がたべてたべられないことはないと言うと、じゃあくれとなった。
その人はいもでいっぱいになった大きなリュックの上に、いもづるを乗せられるだけ乗せて帰った。
あれから60年になるのね。そんなことを知っている者は、もうこの世の少数派になってしまったようだわ」