ばれいしょは冷涼な気候を好む作物なので、南北に長い日本列島では涼しい季節を追って1年中どこかで栽培されています。ちょうど桜前線を1~2カ月遅れで追うように、早春の沖縄で収穫がはじまり、次第に北上して春に九州、初秋には北海道に達し、冬に再び暖地の2回目(秋作)の収穫に戻ります。
九州のような暖地では、春と秋の二期作が可能なので、春作を6月上~中旬に収穫し、これを種いもとして秋作を9月上旬に植付けます。収穫したいもは、しばらくの間はどうしても芽が出ない休眠期間がありますが、男爵薯など北海道の品種群はこれが長いため、秋作の種いもに使っても芽が出ません。ですから、暖地向け品種は二期作ができるように、春作産いもの休眠期間が60~80日と短くなるように特性が改良されています。 特に、暖地は涼しい季節を選んで栽培しても春作では生育の後半が、逆に秋は前半が暑くなります。このため高温で発生しやすい青枯病に強くなければならないなど、様々な面で北海道の品種よりも暑さに強い特性が求められます。また春作と秋作では日長や温度の推移が逆方向になりますが、いずれの気象条件でも同じ様に生育する特性が必要です。 さらに、北海道では春から秋までの長い栽培期間が確保出来るので、1株あたりのいも数が多く、全部のいもが確実に肥大して多収で澱粉価の高い品種が多いのですが、春秋とも冷涼な期間が短い暖地では、いもが早く肥大する品種が必要なのです。ですから、商品価値の高い大粒いもを得るために、一株あたりのいも数を少なくし、充実よりも大きさを優先する生育特性が必要になります。この結果、暖地向きの品種は、北海道の品種に比べて澱粉価が低くなりますが、調理時に煮崩れないので、おでんなどの煮物に適します。 そして、暖地産ばれいしょの大部分は、北海道産ばれいしょの端境期に相当する冬から夏にかけて出荷され、青果市場では野菜として取り扱われるため、大粒で目が浅く滑らかな表皮であるなど外観形質が重要視されます。 以上のように暖地向きの品種には北海道とは異なる特性が求められるため、1950年(昭和25年)から現在に至るまで、長崎県総合農林試験場愛野馬鈴薯支場で農林水産省指定試験事業による暖地向け品種の育成が進められています。 |