Ⅰ じゃがいもの歴史『アンデスから食卓まで』
1.世界への旅立ち
(1)じゃがいもの原産地は、南アメリカのアンデス山脈から北はメキシコに至る3000~4000m級の高地とされています。アンデス高原にはインカ文明につながるいくつかの文明が存在しましたが、その食生活を支えたのが同じく南米原産の『とうもろこし』と『じゃがいも』でした。当時のじゃがいもは野生に近いものでしたので、アク抜きして粉にしたり、乾燥したものを水に戻して食用としていたようです。
(2)16世紀末にスペイン人がインカ遠征の際にヨーロッパにじゃがいもを持ち帰りましたが、当初は食料としてではなく、花としてフランスの宮殿で栽培されていたのは有名な話です。その後、冷涼な気候でも丈夫に育ち「土中に実る」ことからヨーロッパ全土に広がり、オランダなどの海外進出とともに世界各国に伝播しました。そして18世紀後半には麦類、イネ、大豆などと並ぶ主要な作物となったのです。
2.我が国への伝来
(1)約400年前の慶長年間(1600年前後)にインドネシアのジャカルタを拠点にしていたオランダ人が長崎に入れたと言われています。そのため、じゃがいもの名前も「ジャガタラ」に由来しています。日本では、飢饉の時の救荒作物として広まったのですが、さつまいもが暖地に広まったのとは対照的に、じゃがいもは寒高冷地に普及していきました。
(2)その後、明治時代になって北海道開拓が大々的に始まると、外国品種の導入や新品種の育成なども始まり、生産性も向上して全国的に栽培されるようになりました。この時期、最も早くに海外から導入されたのが男爵薯です。函館ドックの専務理事であった川田竜吉という人がアメリカ生まれの品種をイギリスから導入したのですが、これがアイリッシュ・コブラーという品種で、彼が爵位を持っていたためにこの名前で呼ばれています。
この品種は食味と貯蔵性に優れ、作りやすいので全国的に広がりました。現在でも、メークインと並んで、我が国の代表品種となっています。
3.現在の栽培状況
(1)日本は南北に長く、中央部には山岳地帯が多くて気象条件が緯度や高度差に応じて大きく異なっています。じゃがいもは元来、冷涼な気候を好み15~21℃程度が生育適温ですので、高緯度地帯にある北海道、東北や標高の高い本州中部では年1回(春作)の栽培が、そして低緯度地帯にある西南暖地では、年に2回の(春作、秋作)栽培が行われています。
そして、栽培されている品種も西南暖地では休眠期間の短いものが多く、一方、1年1作の地域では春の雪解けを待って植付けされるため、 100日以上の休眠 期間を持った品種が多いなど、地域によって大きく異なっています。
(2)世界的にみてもじゃがいもは比較的気温の低い高緯度地帯で主に生産されていますが、生育期間が短く、地域適応性が高いことから亜熱帯地域にも幅広く分布しています。アジアやアフリカの熱帯地域においても標高の高い高地では平地より涼しいことを利用してじゃがいもの栽培が増える傾向にあります。