V 品種の動向
1.用途別品種の概要
(1)「男爵薯」は粉ふきいもにされ、「メークイン」は煮物にされるように、いもの肉質や煮くずれの程度により、それぞれの調理方法に適した品種があります。また、同じタイプの品種では、近年育成された品種は、総合的により優れた特徴を有しています。新しい食用・業務用の育成品種は、皮を剥いても長時間放置しなければ変色(剥皮褐変)しないので水にさらす必要がなく、水煮後に放冷しても黒変(調理後黒変)しない、外観に優れたものが多くなっています。
「ホッカイコガネ」は目が浅く大粒で業務用に適し、粘質で煮くずれしないので煮物に向きます。黄肉で香りがよい粉質の「キタアカリ」は、加熱時の火の通りが早く、煮くずれしやすいのでベークドポテトやサラダに向いています。「とうや」は、滑らかな肉質で変色が少なく、目が浅いため剥皮歩留りに優れ、「ベニアカリ」は、紅皮で外観に特徴があるばかりでなく、高でん粉の極粉質で、コロッケなどに用いた場合の加工歩留りが高いのが特徴です。「さやか」は変色が少なく、滑らかな肉質と癖の少ない味がサラダの原料として最適です。「十勝こがね」は、誰からも好評で、冷めてからの美味しさが際だちます。「ユキラシャ」は貯蔵性が良く、真っ白な肉で粉質度を翌年の夏まで保つことができます。
(2)長崎などの暖地の二期作専用品種は、ほとんどが調理用として市場出荷されます。
「デジマ」は大粒淡黄肉で煮くずれが少なく、煮物に向いています。「ニシユタカ」は煮くずれが少なく、でん粉価が低いため淡白な味の品種です。「アイノアカ」は紅皮黄肉で、目が浅く楕円形をしており、調理しやすく滑らかな肉質であっさりしています。
このほか、でん粉価がやや高く粉質度のある「春あかり」、味の染み込みが良い「アイユタカ」などの新品種が育成されています。
(3)加工食品用のうち、ポテトチップス用としては、グルコースなどの還元糖が少なく、乾物率が高いことが望ましく、専用品種の「トヨシロ」や「アトランチック」が主として使われ、この他に兼用品種の農林1号や肥大の早い「ワセシロ」も使われています。フライドポテト用には、長くて大きな「ホッカイコガネ」が使われており、この他に太めの「ムサマル」も育成されています。
(4)「コナフブキ」や「紅丸」などの専用品種を主な原料として作られたじゃがいもでん粉は、片栗粉としても売られています。このほかに、加熱したときに他の種類のでん粉よりも低い温度でのり状となり、水分を多く含むという性質を活かして水産練り製品(カマボコ、チクワなど)に使われています。このほか、麺類(ラーメン)などに独特の食感を与えるためにも使われるなど、いわゆる「固有用途」があります。
(5)上記の他に、「安全でおいしい」ものを求める消費者ニーズに応えられる品種として、疫病抵抗性が極めて強く無農薬栽培の可能な花標津など、新しい品種が育成されており、今後の普及が期待されています。
2.主要品種の作付面積シェアの動向
(1)青果用品種
明治から大正にかけて導入された「男爵薯」及び「メークイン」の導入品種が、依然としてそれぞれ3割、1割と大きなシェアを占めています。この2品種は粉質と粘質という対照的な特性を持ち、食味と栽培特性が良好であったことから、広く全国に普及しました。
その後、九州では二期作栽培に適した「デジマ」、「ニシユタカ」などの育成品種が作付シェアを伸ばしています。また、近年育成された良食味の「キタアカリ」は2000haを超え、「とうや」や「十勝こがね」など高品質で特徴のある新品種の作付シェアは着実に伸びています。さらに、橙黄肉の「インカのめざめ」、紫肉の「インカパープル」、赤肉の「インカレッド」は新たな食材として注目されています。
(2)加工食品用品種
油加工適性に優れた「トヨシロ」が高いシェアを維持しており、主としてポテトチップス原料用に用いられていますが、より多収でフライ加工適性の高い「ホッカイコガネ」もシェアが低いながら増加しています。また、サラダ用として、収穫時の打撲痕がつきにくく、機械収穫適性の高い「さやか」の作付が伸びてきました。
(3)でん粉原料用品種
単収の高い紅丸が長期間にわたって首位を占めていましたが、近年、でん粉価が極めて高く、でん粉工場における製造コスト低減が見込める「コナフブキ」の栽培面積が急増し、平成8年にはシェアが逆転しているのが注目されます。
○ 主要品種の作付面積シェアの推移(春作秋作合計)
(単位 :%)
青 果 用 |
41.5 |
34.3 |
34.2 |
32.6 |
32.3 |
30.2 |
29.7 |
29.2 |
|
15.3 |
17.4 |
17.0 |
15.6 |
14.7 |
14.3 |
14.1 |
13.6 |
||
0.4 |
1.3 |
3.6 |
4.5 |
6.1 |
6.3 |
5.8 |
5.3 |
||
4.5 |
3.9 |
3.9 |
2.4 |
3.2 |
3.3 |
1.7 |
1.6 |
||
12.5 |
8.6 |
6.5 |
6.5 |
3.5 |
3.1 |
2.8 |
2.3 |
||
0.9 |
2.8 |
3.3 |
3.6 |
3.4 |
2.9 |
3.0 |
2.5 |
||
- |
- |
- |
0.3 |
1.4 |
2.2 |
2.3 |
2.5 |
||
– |
– |
– |
– |
0.4 |
0.5 |
0.6 |
0.9 |
||
加工食品用 |
2.6 |
5.6 |
7.2 |
8.0 |
9.8 |
10.3 |
11.1 |
12.1 |
|
– |
0.4 |
1.1 |
1.7 |
2.3 |
2.1 |
2.3 |
2.2 |
||
- |
– |
– |
– |
0.2 |
0.4 |
0.7 |
0.8 |
||
でん粉原料用 |
– |
2.2 |
4.9 |
11.2 |
15.3 |
15.1 |
17.0 |
18.1 |
|
17.6 |
20.9 |
14.4 |
11.8 |
4.2 |
3.9 |
2.8 |
2.5 |
||
計 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
資料:都道府県報告による農水省特産振興課調べ
3.新品種の育成状況
(1)育種への取り組み
いも類の優良品種の開発については、独立行政法人及び北海道、長崎県の研究機関を中心に各種の用途に応じた特性を持つ品種の育成に取り組んでいます。品質、成分、貯蔵性、加工適性、機械化適性等の項目に加えて、土壌病害、ウイルス病、センチュウなどの病虫害抵抗性の向上が課題となっています。
また、平成13年度からはプロジェクト研究「食料自給率向上のための21世紀土地利用型農業確立を目指した品種育成と安定生産技術の総合的研究」が実施され、この中でもじゃがいもの新品種開発が行われています。
(2)近年の新品種
最近では
・大粒で目が浅くて加工歩留りが高く、調理特性にすぐれ、緑化しにくい「さやか」
・西南暖地向きで、初のシストセンチュウ抵抗性を有する普賢丸
・疫病に極めて強く、減農薬あるいは無農薬栽培が可能な「花標津」
・ポテトチップス用で摂氏6度での低温貯蔵が可能な「ノースチップ」
・大粒多収で、そうか病、シストセンチュウ抵抗性の「スタークイーン」
・青果用で、そうか病抵抗性が強く、休眠性の長い「ユキラシャ」
・ポテトチップス用で摂氏6度での低温貯蔵が可能、シストセンチュウ抵抗性の「きたひめ」
・暖地二期作用の青果用品種でシストセンチュウ抵抗性の「春あかり」、「アイユタカ」
・小粒であるが濃黄色で栗のような風味を持ち、
低温で貯蔵するとショ糖が生成される「インカのめざめ」
・アントシアニン色素を有し、色と機能性を生かした調理加工ができる
「インカパープル」、「インカレッド」、「キタムラサキ」
・早掘のでん粉重がコナフブキ並みの「ナツフブキ」
・赤皮黄肉の青果用用種「スタールビー」
・シストセンチュウ、そうか病抵抗性の青果用品種「スノーマーチ」
・ポテトチップ用の早生品種「オホーツクチップ」
等の新品種が次々と育成されています。このほかに海外から、でん粉原料用に「アスタルテ」、青果用に「マチルダ」、「シンシア」、ポテトチップ用では「スノーデン 」、「ヤンキーチッパー」などの品種が導入されています。
○ 最近育成された新品種とその特性
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シスト・そうか病抵抗性の青果用 |
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早生のポテトチップ用 |
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早掘可能なでん粉用 |
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シスト抵抗性の暖地二期作品種 |
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青果用、赤皮黄肉 |
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青果用、アントシアニン色素(ペタニン)を含む、紫色の肉色 |
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青果用、良食味で栗のような風味、濃黄色の肉色、小粒 |
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青果用、アントシアニン(ペタニン)を含む、紫色の肉色 |
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青果用、アントシアニン(ペラニン)を含む、赤色の肉色 |
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|
青果用、シストセンチュウ抵抗性 |
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チップス用、低温で貯蔵可能、シストセンチュウ抵抗性 |
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長期貯蔵可能、調理特性に優れる、シストセンチュウ抵抗性 |
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そうか病抵抗性、長期貯蔵可能 |
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そうか病抵抗性、シストセンチュウ抵抗性、調理用、黄白肉 |
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チップス用、低温でも長期貯蔵可能 |
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疫病無防除栽培が可能、淡赤皮、調理用、花もきれい |
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暖地二期作向けで初のシストセンチュウ抵抗性、早期肥大性、煮崩れ少 |
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早堀り可能なでん粉原料用 |
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大粒で調理加工適正に優れる |
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コロッケ・サラダ等への適正大 |
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シストセンチュウ抵抗性,高でん粉 |
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外観品質良好,煮崩れ少,調理特性良 |
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早生・大粒,シストセンチュウ抵抗性、芽が浅い、剥皮褐変・水煮黒変が少、業務用 |
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大粒、多収、シストセンチュウ抵抗性、フレンチフライ加工適正大 |
注:(指)は、指定試験地の略で、国の指定助成により育種が行われている。